子どもの日本語(JSL)教材の蔵

日本語教師による「かゆい所に手が届く」を目指したJSL教材紹介ブログ。個人的見解の備忘録でもあります。

語彙指導で大切なこと:教材 葛西ことばのテーブル「ことばのネットワーク」

今回は 語彙指導に必要なこととともに、葛西ことばのテーブル「ことばのネットワーク」をご紹介します。

この記事は

  • 語彙指導の教材を探している方
  • 日本生まれ、幼少期来日で生活言語はできるのに、作文や読解のつまずきが気になる子どもの教材を探している方

におすすめです。

 

教材情報

100枚プリント 第19集 ことばのネットワーク|世界の日本語教育に貢献するにほんごの凡人社

 

1、語彙指導に必要なこと 

ことばを学ぶ上で語彙を増やすことは不可欠です。

日本語教育では、例文で助詞や共起することば(コロケーション)を示し、短文づくりをすることなどによって、「使い方」を教えることが多いです。

今回は特に子どもに教える上でわたしが気を付けていることについて書きたいと思います。

 

ことばが持つイメージ、背景

「すいか」と聞いたら、どんなことを思い浮かべますか。

  •  夏の代表的な果物
  •  大きくて重い、1個まるごとを買ったら持ち帰るのに一苦労
  •  赤くて、甘い(黄色もある)
  •  種がいっぱい、食べるときに飛ばして遊んだりする

など、いろいろなイメージが浮かぶと思います。

 

では、同様に「チェリモヤ」と言われたら、どうでしょうか?

ご存知でない場合は検索されたでしょうか?

写真や説明を見て「へー」と思っても、

この単語を使って文を作ったり、

食べている光景を具体的に思い浮かべるのは、

すいかより難しいのではないでしょうか。

 

「ことばを覚える」とは、ただ辞書に載っている意味を覚えるだけでは足りません。

特に子どもの場合はそれにプラスして、ことばのイメージを広げることが重要です。

なぜなら、子どもは語彙とともに、新たな知識を得ていかなければなりません。

すでに持っている知識と関連付けることは、理解や記憶を助けます。

チェリモヤ」のイメージは持っていなくても問題ないかもしれませんが、

例えば「京都」のような地名だと教科学習に直結してきます。

  • お寺などの古い建物が多い
  • 和風・日本的

といったイメージを持っていると「かつては日本の都だった」と習った時に、

「ああ、だから古くて有名な建物がたくさん残っているのか」と理解しやすくなります。

逆にそういったイメージを一切持っていなければ、新たに覚えなければならないことが増えるわけです。

言ってみれば、

 

その語を取り巻くイメージをたくさん知っていることは、他の語や知識と出会った時に引っかかる釣針になる

 

ということです。

 

2、教材:葛西ことばのテーブル「ことばのネットワーク」

2-1葛西ことばのテーブルとは

前置きが長くなりましたが、ここから教材の紹介です。

まず「葛西ことばのテーブル」とは

 

葛西ことばのテーブル

 言語障害学習障害の、お子さんや成人の方を対象とした、言語・学習指導室です(上記HPより引用)

 

こちらのオリジナル教材はJSL児の日本語指導にもよく用いられています。

1枚を短時間ででき、子どもも取り組みやすいようです。

 

2-2葛西ことばのテーブル「ことばのネットワーク」を使ってみて

2-2-1 どんな子どもに?教材を選んだ理由

就学前に来日し、生活会話には問題ない児童に使いました。

そのきっかけは、5年国語「大造じいさんとガン」を一緒に復習したことでした。

ガンの「残雪」がハヤブサと闘う場面で、「胸を紅に染めて」という表現が出てきます。

「紅」「染める」は難しいので、再度一緒に辞書を引き、意味を確認しました。

でも、「胸のあたりが赤くなった」とは理解できても、

「攻撃を受けて、流血している」ということがなかなか理解できません。

「前の場面で何をしていた?」「戦って、体が赤くなったってことは‥?」とヒントを出してみましたが、ダメでした。

  • ハヤブサ、ガンなど大きな鳥のくちばしや爪の鋭さをイメージする
  • 「闘い・赤 → 血」といった連想

それができていないのではないか?と考えたときに、この教材を使ってみることにしました。

 

2-2-2 どんな教材?

第19集 ことばのネットワーク トップ

サンプルや詳細は上記リンクをご参照ください。

タイトル通り、「ことばとことばをつないで、ネットワークをつくる」ための教材です。

 

2-2-3 どうやって使う?

わたしが主に使用したのは

「Ⅳ関係のあることばを考えよう」です。

まずは、子どもが自分で考えて書きます。

その作業自体はそれほど難しくないので、積極的に取り組んでいました。

それを見ながら、

  • そのことばを書いた理由について話す
  • そのことばを使って文を作る練習

などをしました。

 

2-2-4 使ってみて

「関係のあることばを書く」問題で、「トマト」→答「まずい」と書きました。

この2語で文を作るように言うと「トマトはまずい」と返ってきました。

ですが、これはトマトの客観的な説明ではなく、主観的な感想です。

「(わたしは)トマトはまずいと思う」とするなど、主観と客観の区別をつけていくことの重要性に気づかされました。

(上記リンクの「子どもの回答から」が大変参考になります)

 

わたしはこのように使いましたが、

語彙を増やし、イメージを広げる・深めるのに、

幅広く多くの子どもに役立つ教材だと思います。

おすすめです。