授業再開に向けて:授業方針の立て方~絵本、本の活用
久しぶりの更新になってしまいました。
多くの公立学校が休校となっていましたが、授業再開に向け動き出しました。
今回の記事は授業再開に向け、子どもたちの現状把握から年間の授業方針をどのように立てるのか、わたしの考え方を言語化しておきたいと思います。
1、子どもの現状を把握する
現状を把握する観点:「日本語力(生活会話)」と「認知力」
授業方針を立てることは
その子どもの「現状」をどう「目標」に近づけるのか
を考えることです。
わたしの活動する場での学びの目標は
・クラス授業を安心して受け、理解・参加できるようになること
です。
では、子どもの現状をどう把握するのか?
その「手段」はやはり
- DLA
- 日々の子どもの観察
です。
その際、どのような「観点」で子どもを見るのか?
これは、一連のDLA記事にも書きましたが、
「日本語力」と「認知力」が大きな柱だと思います。
- 日本語力・・・ここでは主に会話能力
- 認知力・・・物事を理解し、思考する能力。母語の習得度、母国での教科学習経験も大きく関わる。
この2つを組み合わせて、図示しました。
下の図で、目指すべきは当然④「日本語力、認知力ともに高い」です。
2、現状・課題に応じた授業方針
では、➀~③のゾーン別に課題と授業方針を考えてみます。
➀日本語力「低」認知力「高」
<例>来日直後の高学年児童
- 母国で学校教育を受けていた=教科の知識がある
- 母語で「読む・書く」もある程度できる。
日本語は話せないが、頭の中には知識があり、思考もできる(であろう)といったケースです。
本人は辛いと思いますが、ある程度日本語学習が進むと、学習面では順調に伸びていくケースが多いです。
<課題>
- サバイバル会話、生活に必要な会話
- 教科学習に必要な日本語(教科書を読み、授業を聞き、理解して考えたことを話す、書く)
知識や理解力はあっても、それを日本語でうまく表現できないことに本人が不安や苛立ちを抱えているケースがあるので、
「日本語でできない」だけだということを心にとめておきたいところです。
<授業方針>
日本語のルールを体系的に学ぶのが有効。
学習経験があるので、ルールを学んでそれを応用するといったことができるケースが多いです。
そういう意味では成人の日本語教育に近いと思います。
日本語学習⇒教科学習という順序にこだわらず、
得意教科があれば、その知識を日本語ではどのように表現されるのかを知ることで両方の習得、伸長を目指すといった工夫もできます。
②日本語力「低」認知力「低」
<例>来日直後の就学前・低学年児童
- 学校で学んだ経験がない=勉強の方法を知らない
- 母語で年齢相当の「話す・聞く」はできるが、「読む・書く」は難しい
高学年でも母国で学校に行っていなかったり、学習が極端に苦手な場合もここに該当します。
<課題>
- サバイバル、生活会話
- 文字に親しみ、読み書きを楽しく学ぶ
- 文を読んだり、話した内容を文に書く
日常会話はほどなくできるようになり、
低学年の場合は、教科学習もまだ内容が易しく、具体物や視覚教材も多いので「なんとなく」理解して、授業にはついていけます。
そのため、教員や日本語指導者にも課題を見過ごされがちなので、評価は慎重にしたいところです。
<授業方針>
文型のようなルールを提示してそれを応用するといった「勉強」は難しかったり、嫌がられたりする場合もあります。
遊びや生活の中で「その場面に必要なやり取り」を通して日本語が学べるような工夫が必要です。
ゲーム性のある活動で反復学習をしたり、本(特に絵本)を通した対話で語彙や会話の内容を豊かにするといった方法を取り入れたいです。
母語話者が言語を習得していく過程に近いので、多くの教材、知育玩具が使えると思います。
同時に教科学習につながる生活経験の言語化も心がけます。
わかりにくいと思いますが、例えば、↓のようなことです。
2ずつ「に、し、ろ…」という数え方。
— まゆゆな (@mayuyunajapanes) 2019年11月6日
こんな生活の一場面が、算数につながっていく。
カルタの後、1枚ずつ数えている子の隣で「に、し…」と数えたら、しばらくじっと見つめて、真似し始めた。
こういう経験の種を蒔いていきたい。#外国につながる子ども
③日本語力「高」認知力「低」
<例>日本生まれ、幼少期来日である程度時間が経った子ども
いわゆる「生活言語はできるけれど、学習言語はできない」と言われる子どもです。
最近は理解が広まってきましたが、それでも、ただ「本人の努力不足」「勉強ができない子」と思われがちです。
実は一番しんどいケースです。
②の子どもたちをこの③ではなく、④に持っていく難しさをひしひしと感じています。
<課題>
- 生活会話の拡充 ⇒ オフィシャルな話し言葉、書き言葉へ
「生活会話はできる」といっても、
それは「まとまりのある話」「発表など書き言葉に近い話」ではなく、
「友達同士の限られた話題」であって、語順や助詞はなく、
語彙についても、実は抜け落ちていたり、小さな誤解(大きな誤解はどこかで修正される機会がある)があったりします。
書き言葉の理解、産出はさらに難しいのは言うまでもありません。
- 教科学習
<授業方針>
生活言語の拡充とそれを学習言語に橋渡ししていくことを考えます。
本人から出てきた内容を発表の形(まとまりのある話し言葉)や作文(書き言葉)にすることで、正確な文の形で産出できるようにします。
教科学習に課題があるので、それを教科学習と絡めてやっていくことが必要です。
ただ…なかなかうまくいかないケースが多いです。
苦手科目は進んでやりたがらないですし、作文もたいていの子は好きではありません。
なかなかこちらの計画通りには進みません。
本人の興味や得意を生かして、効果的な方法はないかと試行錯誤するばかりです。
④すべての子どもに ~絵本、本の活用
ここまでゾーン別に書いてきましたが、すべての子どもの活動に共通して使えるのは「本・絵本」です。
子どもが読みたいと自分で選んだ本で、楽しく、学習につなげられればと考えています。
➀日本語力「低」認知力「高」
過去記事にも書いた通り、国語の予習に効果を発揮します。
また、歴史や地理、日本文化にかかわることなども、本や絵本から学べます。
②日本語力「低」認知力「低」
様々な絵本が使えます。
読み聞かせをしながら、子どもが指差したもの、質問してきたことにこちらが反応をすることは
まさに「その場面に必要なやりとり」で、絵本がその場面の幅をぐっと広げてくれます。
また、昔話などは日本の文化的要素が含まれています。
「地蔵」「臼」などのわかりやすい例だけでなく、
例えば「たぬきはずる賢い」は事実ではなく、日本語話者の持つ共通イメージであり、
「たぬき寝入り」「たぬきおやじ」といった語彙にも派生していきます。
こういった「イメージ」を知ることができるのも絵本の大きな効果です。
③日本語力「高」認知力「低」
高学年でも「自分で読む?先生が読む?」というと、かなりの確率で「読んで」と言われます。
単純に、誰かに本を読んでもらうことはやはりとても嬉しいことなのだろうと思いますが、
「読む」と「内容理解」を同時にするのが難しいのかもしれません。
そういう場合はリクエストに応えて読み聞かせをして、あとで「DLA読む」の要領で内容の再話をさせたりします。
一人で読みやすい学習マンガなどでも読んだあとに、その内容を再話することで、話しことばから学習言語に近づけていくことを意識しています。
3、最後に
実際にはDLAの結果などを見て、直感的に「あの教材でこんな風にやろう」と具体案を先に思い浮かべることが多いのですが、
その無自覚な直感の根拠となる部分を自分で探ってみました。
こんな風に完全にパターン分けができるわけではないですし、
上手くお伝えできているかどうかわからないのですが、
一つの考え方として、読んでくださった方の参考になればうれしいです。