子どもの日本語(JSL)教材の蔵

日本語教師による「かゆい所に手が届く」を目指したJSL教材紹介ブログ。個人的見解の備忘録でもあります。

メタ認知:教材 葛西ことばのテーブル「自分のことを考えよう」

今回は 葛西ことばのテーブル「自分のことを考えよう」をご紹介します。

この記事は

  • メタ認知力を育てたい
  • 対話を通して、日本語だけでなく、教科知識につながる練習がしたい

人におすすめです。

 

教材情報

自分のことを考えよう トップ

 

1、メタ認知ー学習を進めていくために

メタ認知」という言葉を耳にされたことがありますか。

最近はビジネススキルの啓発本などにも取り上げられることもあるようです。

簡単に言ってしまうと、

「自分の認知を認知すること」

つまり、

「自分自身が何を、どの程度、どのように理解しているかを、客観的にとらえること」

と言っていいかと思います。

 

このメタ認知は自分で学習を進めていく上で、重要な能力の一つです。

「何か質問ある?」は教師がよく口にする言葉ですが、

適切な答えが得られる質問をするには、まさしくこのメタ認知が必要です。

 

例えば、「平行四辺形」について以下のように質問されました。

 

1、「平行四辺形がわかりません」

2、「平行四辺形は向かい合う辺が平行な四角形です。それなら正方形、長方形とは何が違うのですか」

 

どちらが答えやすいですか?2ではないでしょうか?

1に答えるには、何をどこまで理解していて、どこで躓いているのか、一緒に探っていく必要があります。

一緒に探ってくれる人がいない場合もあるでしょうし、いたとしても、時間がかかります。

2のように(こんな質問ができる子どもは稀でしょうが)、

「すでに理解できていること」を提示した上で、

「理解できていないことを具体的に」質問できれば、学習はスムーズに進むわけです。

もちろん、これは「質問するとき」に限らず、学習全般に言えることです。

 

2、教材:葛西ことばのテーブル「自分のことを考えよう」

2-1 どんな子どもに?教材を選んだ理由

以前担当していた子どもについて、担任からこんな話を聞かされました。

「国語の授業のグループワークで、

そのグループ内の話し合いの進行役を本人が買って出たけれど、

やるべき内容を理解できておらず、彼女のグループは全く話し合いにならなかった。

他の子たちはあきれつつも、フォローをしてくれたけれど、本人はできていないことに気づいていなかった。」と。

 

いわゆるダブルリミテッド、いえ、母語はほとんど失われていたのでシングルリミテッドといった方が適切かもしれません。

明るく素直でクラス内の友達からも好かれていましたが、

学習面はかなり厳しい子どもでした。

 

メタ認知」とまでいかなくても、

「自分自身のことを客観的に見るための易しい練習」ができないか?と思っていた時に、この教材を見つけました。

 

2-2 どんな教材?

自分のことを考えよう トップ

上記リンクから引用します。

自分自身の経験・所有・能力・知識などについて、その有無を判断し、伝達するワークです。自己洞察能力の育成と、心理状況の表現方法の学習を目的としています。 

 

リンクから問題例もご覧になれますが、

「食べたことのあるもの」(経験)

「自分ができること、できないこと」(能力)

「自分が知っていること、知らないこと」(知識)などについて、その有無を答える問題が多数あります。

 

この教材は、その有無を問題にしているのではなく、

自分のことを判断し、適切に伝えるための練習を扱うので、

回答の選択肢に「できる、できない、わからない」「知っている、知っていると思うけれど自信がない、知らない」となっているところが一つのポイントです。

 

2-3 どうやって使う?

「答え」より「自分のことを深く考え、表現すること」が大切!

話がそれますが、今回この教材を思い出したのは、あるエッセイを読んだからです。

それは、某有名ファストフードチェーンの「フィレオフィッシュ」を食べたことがあるかどうかを思い出せない、という内容でした。

それを読んで、考えてみたら、わたしも思い出せなかったのです。

 

わたしは

・その店は何度も利用したことがあるが、大人になってからはあまり行っていない。

・食べ物では冒険をせず、気に入ったものを食べ続けるタイプ。

 そのチェーンでは、ほぼチーズバーガーとポテトを注文。

 違うものも注文することは、ごくたまにしかない。

・「フィレオフィッシュ」は当然知っている。

 味も知っている気がするが、それは食べたことがあるから?想像?わからない。

・食べたことがあるとしても、他チェーンの魚系バーガーかも?

と考えをめぐらし、結論は「食べたことがあるかどうかわからない」でした。

 

話を元に戻しましょう。

この教材でも同じような質問があり、子どもはそれに答えます。

ですが、

その「答え」=「フィレオフィッシュを食べたことがあるかどうか」よりも、

過程=「食べたような気がする。でも、わたしはチーズバーガー派だよな」と考え、

確信の程度を添えて「食べたことがあるような気もするけれど、覚えていない」と伝えられることが重要なわけです。

子どもがプリントに答えを書いたら、

答えを見ながら、この答えに至った過程、どうしてそう思ったのか、など話をすることで、

子どもがより深く自分のことを考え、表現しようとすることが大切だと考えます。

 

2-4 使ってみて

わたしが使ったのは、高学年児童だったので、「知識」を中心に扱いました。

「知識」の問題は教科学習の内容とも関わるので、教科書を開いて「勉強!」という雰囲気ではなく、教科学習内容を扱えるのもこの教材の思わぬ利点でした。

 

 

 メタ認知能力は一朝一夕に育つものではありませんが、

この教材は1ページなら、回答後の話を含めても、それほど時間はかからないと思うので、継続的に使えれば、より効果的だと思います。